昨今のプライバシー保護意識の醸成・Cookie規制の強化などにより、個人のプライバシーに配慮する形でのデータ分析ならびに広告効果の可視化が問題になっています。
そこで本記事では、Cookieに依存することなく、プライバシーを保護しながらデータ分析や広告効果の可視化が可能な「データクリーンルーム」という手法について解説します。
データクリーンルームの仕組みと役割・メリットや活用事例などについて網羅的に説明していますので、マーケティング担当者は必読の内容です。
記事の後半では、データクリーンルームと同じ役割を果たせるマイクロアドの「UNIVERSE」についてもご紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
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6.1 トレジャーデータ×LINEヤフー
6.2 博報堂グループ
6.3 電通グループ
7.1 企業の保有するデータと様々なデータを統合・分析できる
7.2 Cookieに依存せずに広告効果の最大化に活用可能
「データクリーンルーム(DCR)」とは、Googleなどのプラットフォームの厳格な管理の下でデータ共有・分析をおこなうクラウド環境を指します。
データクリーンルームを活用すると、アクセスが厳重に管理されている状況下で安全に企業間のデータ連携が可能です。
個人のプライバシーに配慮する形で顧客や消費者データを分析し、広告効果を可視化できる新たな手法として注目を集めています。
データクリーンルームが必要とされるようになったのには、次のような背景があります。
それぞれについて解説します。
情報セキュリティの脅威とは、外部からのサイバー攻撃や内部からの情報漏洩などの情報資産に損失を与える事象を指します。
具体的に該当するのは、次のような事象です。
これらの意図的な脅威以外にも、不注意によるデータの削除やパソコン・USBの紛失などの偶発的脅威もあります。
情報セキュリティに関する脅威は、金銭的損失や組織の信頼性低下など深刻な影響をもたらす可能性があります。
年々増加傾向にある情報セキュリティの脅威に対する対策が不可欠です。
インターネットの普及により、特定の個人を識別できる情報の流失や不当に収集・使用される事例が増えてきました。
主な個人を識別できる情報としては、以下が挙げられます。
企業はプライバシー配慮に対する社会的要請に応えたうえで、データの利活用やサービス提供をおこなわなければなりません。
プライバシー保護意識が醸成される中、データプライバシー対策として各国で法規制の強化が進みました。
具体的には、個人情報の収集・共有や第三者への提供に関する本人同意などに関する規制です。
日本では「個人情報保護法」が制定されており、個人情報の利用目的の特定や適正な方法での取得などが義務付けられています。
法規制に加えて、ブラウザ側でも自主規制をおこなうようになりました。
なかでも広告配信や分析などに幅広く活用されてきた3rd Party Cookieは、第三者がユーザーの意図しないところで行動を追跡できる点で、プライバシー侵害につながるという見方が広がった結果、規制が進んでいます。
Apple社のWebブラウザ「Safari」では、2020年3月以降3rd Party Cookieが全面的にブロックされ(※1)、Google社は3rd Party Cookieの廃止を発表しました(※2)。
これにより、ユーザーが広告を閲覧した後の行動情報の取得が制限されるようになりました。
今後は広告の効果計測の精度低下や、リターゲティングを始めとするパーソナライズされた広告配信が困難になると予想されます。
※1)WebKit Full Third-Party Cookie Blocking and More
※2)Google Japan Blog Chrome ブラウザでのサードパーティ Cookie の段階的廃止に向けた次のステップ
多くの企業が、最新のIT技術を活用して業務効率やサービスを改善するDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しています。
DX化が加速する中、ビッグデータの利活用は企業にとって喫緊の課題です。
日々蓄積されていく膨大かつ多種多様なデータから有用な情報を抽出して、高度な経営判断や戦略立案・サービスの改善に活かす必要があります。
それには、適切な手法を用いた効果的なデータ分析が不可欠です。
データやコンテンツを自律的または半自律的に検証する高度な手法やツールが求められています。
データクリーンルーム(DCR)が必要とされる背景を理解したところで、本章ではDCRの仕組みと役割についてみていきましょう。
DCRを利用したい企業は、まず自社や関連企業が保有するデータをユーザーのプライバシーを保護できる形に整備・暗号化します。
そのうえでDCRに接続して、プラットフォーム側が提供する各種データと掛け合わせて統合的な分析を行います。
データは暗号化され、アクセス権の制限もできるため、個人のプライバシー侵害や情報漏洩のリスクが低いのが特徴です。
次に、DCRでどのようなことができるかを解説します。
DCRの主な役割としては、以下が挙げられます。
自社が保有する1st Partyデータに加えて、DCRに接続して得られるデータの活用によって既存の顧客プロファイルを強化できます。
また、他社と一致する顧客リストを抽出して、自社サービスとの共通顧客を把握できるため、オーバーラップを活かした共同マーケティングにも役立てられます。
広告主と広告代理店が保有するデータをDCRで掛け合わせると、情報源が確かで信憑性の高い情報の統合・分析がおこなえるでしょう。
ユーザーの情報を集めて分析できる点で混同されがちな、CDP・DMPとデータクリーンルーム(DCR)の違いについて解説します。
CDP(Customer Data Platform)は顧客データの収集・統合・活用を目的としたプラットフォームです。主に既存顧客との関係強化に利用されます。
DMP(Data Management Platform)はマーケティングや広告活動に関連するデータを統合するプラットフォームです。主に広告配信の最適化のために利用されます。
データクリーンルームは、上述のとおり自社のデータと外部のデータを掛け合わせてデータ分析をおこなう、個人特定がなされないクラウド環境です。
既存顧客との関係強化だけでなく、外部のデータを活用した新規顧客の開拓にも用いられます。
加えて、広告効果の可視化や配信セグメントの最適化などによって、広告効果の最大化にも活用できます。
幅広い用途に利用できる点でも注目を集めています。
データクリーンルーム(DCR)の仕組みと役割に続いて、DCRを活用するメリットについて解説します。
上述のとおり、Appleに加えてGoogleのChromeブラウザも3rd Party Cookieの利用を停止します。
これにともない、企業はPost Cookieへの対策が求められています。
DCRでは、3rd Party Cookieに依存せずに個人を特定できない形でデータ共有・分析ができます。プライバシーを侵害するリスクが低く、データの安全性が担保されているのがメリットです。
自社データと様々な企業のデータの統合・分析をおこなえるのがDCRの特徴です。
大手プラットフォーマーの莫大なデータを用いて、自社のみでは難しい大規模なデータ分析が可能です。
例えば、データクリーンルームから提供されるパフォーマンスデータを活用することで、広告主はユーザーがどの広告にどのように反応するかを分析することができます。
また、複数の企業の顧客データを統合することで、より詳細な顧客セグメント分析を行うことも可能です。
顧客の嗜好や行動パターンなどのペルソナへの理解を深めることで、顧客一人ひとりにパーソナライズされたより効果的なマーケティング戦略の構築が目指せます。
そのほか、ユーザーの製品・サービスへの反応もより詳しく分析できるため、製造業・エンターテインメント産業における新商品や新サービスの開発にも役立てられるでしょう。
これまでWeb広告の効果分析に用いていた3rd Party Cookieは、ユーザーの閲覧履歴や流入・離脱などの情報を得られることが最大のメリットでした。
しかしながら、複数のサイトを横断してデータを収集するため、プライバシー侵害の懸念のほかにCookieに含まれるデータの詳細が確認できないというデメリットがありました。
DCR内のデータは入手先が明確で、かつ個人を特定できない形に加工されています。
活用できるデータそのものの信頼性が担保されているのがメリットといえるでしょう。
データクリーンルーム(DCR)の活用には多くのメリットがある一方、注意しなければならない点がいくつかあります。本章では、DCRの課題と注意点について解説します。
DCRでは、企業とエンドユーザーが共有を承諾した情報のみがアップロードされます。
膨大なデータを活用できますが、連携可能なデータが限定される点に注意しなければなりません。
また、ネット広告業界団体IABの調査「State of Data 2023」では、DCRで統合されたデータセットのマッチング率は種類によってバラつきがあり、約39%から52%となっています。
現時点では決してマッチング率が高いとはいえず、向上の余地があります。
DCRを利用する際は、データの品質や正確性を担保するためにもエラーやバイアスが生じないようにしなければなりません。
それゆえ、データの収集・分析などのプロセスにおける適切な管理と監視が必要です。
また、情報漏洩や不正利用を防ぐ対策が求められます。
セキュリティを確保したうえで、アクセス制御や認証方法を策定しましょう。
DCRを導入すると、初期費用に加えて運用管理のコストがかかります。
上述のIABの調査によると、DCRの平均年間ランニングコストは約5,000万円と高額です(※3)。
さらに、データセキュリティ・分析などの専門知識のある人材が必要なため、外注費なども発生する可能性があります。
同じくIAB調査によると、DCRユーザーの約8割はCDPと DMP を使用しています(※4)。CDPやDMPのコストパフォーマンスと比較して高い導入効果が見込めるのかを見極めましょう。
※3,4)IAB State of Data 2023
既にデータクリーンルーム(DCR)を取り入れて活用している企業も存在します。本章では、3つの活用事例をご紹介します。
アメリカのソフトウェア開発企業「トレジャーデータ」は2022年5月にLINE(現LINEヤフー)と業務提携契約を締結し、企業が活用しやすいDCRの構築を進めています(※5)。
トレジャーデータの国内外450社以上に提供している顧客データ基盤「Treasure Data CDP」と、月間アクティブユーザー9600万人のLINEによる連携が強みです。
トレジャーデータのCDPに格納された顧客データを、ユーザーの同意を得てLINEが獲得したデータと突合・分析できます。
また、トレジャーデータは2023年4月にYahoo(現LINEヤフー)とも連携し、データクリーンルーム「Yahoo! Data Xross」を提供(※6)。
トレジャーデータのCDPに格納されたデジタル広告やアプリプッシュ通知の履歴などのデータを、「Yahoo! JAPAN」が保持するデータを使って分析できます。
※5)TREASURE DATA トレジャーデータ、LINE株式会社と業務提携契約を締結
※6)TREASURE DATA Yahoo! JAPAN、トレジャーデータと連携し、 新たにデータクリーンルーム「Yahoo! Data Xross」を本日より提供開始
博報堂グループの博報堂DYメディアパートナーズは、同じ博報堂グループの博報堂DY ONEと共同で、広告の接触や動画視聴による検索数の上昇効果を推定・可視化する機能を開発しました(※7)。
この機能を活用すると、データクリーンルームとDACの保有する推定検索データによって、プラットフォームを横断した検索数の上昇効果の比較が可能です。
また、自社と競合の興味関心層の重複率などの、検索ユーザーの分析にも役立ちます。
DCRを活用して、広告配信による検索回数の最大化を図るプランニングが実現できます。
※7)博報堂DYメディアパートナーズ 主要プラットフォーム横断でデジタル広告のサーチリフト効果を可視化、検索数を最大化するプラニングを可能に
電通・電通デジタルを中心とした電通グループでは、Cookieの使用が欧米で制限され始めた頃から、データクリーンルームに着目しています。
各プラットフォーマーのDCR利用ライセンスを獲得して、他社に先駆けてDCRの活用を推進してきました。
具体的には、以下のような用途が挙げられます。
さらに電通グループでは、複数のデータクリーンルーム環境を一元管理する「TOBIRAS(トビラス)」を開発しました(※8)。
これまで事業者ごとに分析に必要な環境・仕様が異なっていたDCRの分析・運用を一元管理できるほか、分析結果を統一指標で比較や評価ができるようになりました。
※8)電通ウェブサイト 複数のデータクリーンルーム環境を一元管理する「TOBIRAS」を開発
「UNIVERSE」は、マイクロアドが提供するマーケティングプラットフォームです。
ここまで解説してきたデータクリーンルームと同じ役割を果たします。
具体的には、次のような機能を有します。
それぞれについて解説します。
「UNIVERSE」では、企業が保有しているあらゆるデータをインプット可能です。また、提携する200以上のデータ保有パートナーから消費行動データを収集・累積しています。
これらのデータを統合的に結び付け分析することで、複数のデータソースによる多面的な分析が可能となり、より正確な顧客ペルソナを把握する事ができます。
「UNIVERSE」では、3rdPartyCookieに依存しないデータを蓄積しています。
スマートフォンアプリを通じて取得した広告IDや、「RampID」「IM-UID」などの複数の共通IDソリューションと連携しており、PostCookie環境下でも膨大なデータを活用したマーケティングが可能です。
「UNIVERSE」では、業種ごとに特化した業種別プロダクトを全部で19業種提供しています。データの分析結果を元に、これらのプロダクトを活用して、最適な形で広告掲載メディアへ配信できます。
情報セキュリティに関する脅威の増加やCookie規制の強化などを背景に、データクリーンルームが注目を集めています。
データクリーンルーム(DCR)とは、Cookieに依存せずに個人を特定できない形でのデータ分析と、入手先が明確なデータによる効果分析が可能なクラウド環境です。
本記事では、DCRの仕組みと役割・活用するメリット・課題・注意点と活用事例について解説しました。
記事の後半では、PostCookie環境下でデータクリーンルームと同じ役割を果たせるマイクロアドの「UNIVERSE」をご紹介しました。
Cookieに依存せずにデータ分析をおこない、広告効果の最大化を図りたい方は、ぜひマイクロアドの「UNIVERSE」の導入をご検討ください。